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Science

網膜とは

ビジョンケアグループでは、視覚障害者の生活を向上させるあらゆる方法を考え挑戦しています。日本をはじめとする高齢化が進む国では、網膜疾患が視覚障害の大きな原因であり、子会社の株式会社VC Cell Therapyと株式会社VC Gene Therapyでは網膜疾患の治療法を開発しています。
網膜は、眼球の後部に位置する神経組織で、角膜、水晶体、硝子体といった透明な組織を透過した光を感知し視覚情報を脳に送る役割を担っています。網膜は外側から以下のような層で構成されています。

  1. 網膜色素上皮層:神経網膜(sensory retina)と同じ神経管由来の一層の特殊な上皮様組織で視細胞を維持するなど様々な役割を持ちます。
  2. 視細胞層:桿体細胞と錐体細胞と呼ばれる2種類の光受容細胞(視細胞)から成る層です。桿体細胞は薄暗い条件下での視覚を提供し、錐体細胞は色覚と高解像度の視力(黄斑部に集中した錐体による)を提供します。
  3. 二次神経層:2次ニューロンである双極細胞を含み、水平細胞やアマクリン細胞が視細胞からの信号を処理し、次の層へ送ります。
  4. 神経節細胞層:この層の神経節細胞は視神経を形成する長い突起を持ち、視覚情報を脳へと伝達します。

細胞治療(再生医療)

細胞治療には2種類の目的があります。一つは幹細胞が産生する栄養因子などが組織の炎症を抑えたり再生を促したりするtrophic effectを狙うものです。間葉系幹細胞などはこの効果が主流で点滴で行うことが多い治療です。もう一つは傷害された細胞を置き換えて組織の再構築を行うものです。その場合は局所の細胞を置き換えますので、必ず手術が必要となります。これまでの低分子化合物やタンパク質の抗体医薬と異なり、細胞というなまものが材料の外科的治療であり、患者の組織の環境によって細胞は変化するため、効果は患者の微細環境によって大きく影響されるという特徴があります。

網膜は脳の一部が眼球に陥入したもので中枢神経の一部です。視覚系の重要な部分であり、損傷や病気により影響を受けると視覚障害を引き起こしますが、網膜細胞は再生しないため完全に傷害されると再生医療(細胞治療)しか組織を再建する方法がありません。 基礎研究上では網膜細胞を作れる可能性があるのは、胎児網膜、毛様体細胞、ミュラー細胞、などがありますが、現在実際の細胞移植の材料としては胎児網膜、ES細胞、iPS細胞が使用されています。私たちはこの中で霊長類のES細胞由来網膜色素上皮細胞を始めて報告し治療に使える可能性を始めて報告しました。その後、iPS細胞が出現してから臨床応用へと大きく踏み出しました。

遺伝子治療

網膜変性疾患は視細胞の変性をきたす疾患の呼称で、高齢者におこる加齢黄斑変性以外は遺伝性疾患です。遺伝性網膜変性(Inherited Retinal Diseases: IRD)は視細胞の遺伝子変異が原因の場合とRPEの遺伝子変異が原因の場合があります。200以上の原因遺伝子があるとされており、遺伝形式は常染色体顕性(有性)、常染色体潜性(劣性)、伴性潜性(劣性)、2遺伝子異常などあらゆる形式をとりますが、いずれにしても根本的に治療する方法は原因の遺伝子治療となります。

網膜は癌についで遺伝子治療が盛んな部位で、a) 視細胞に対する栄養因子の遺伝子を補充する治療、b) 原因の遺伝子治療(b1:正しい遺伝子を補充する治療、b2:原因となる遺伝子変異をゲノム編集する治療)、c)オプトジェネティクスで視細胞以外の細胞に光を感受させる治療があり、それぞれ治験が進められています。この中で根治治療の可能性があるのは、b)の原因遺伝子の治療でRPE65の遺伝子治療が有名ですが、酵素遺伝子補充で一部機能回復効果のあるRPE65遺伝子治療と異なり、多くの原因遺伝子治療では機能回復ではなく機能維持が治療効果となりますが、早期の間に治療しないと有効でない場合も多いと考えられます。

医療AI

AIの発達により眼科領域、特に網膜疾患ではAIによる画像診断ソフトが早くから開発されてきました。すでに診断の成功率は高く、いずれAIによって大きく眼科学が変化していくことが予想されます。さらに一方進んで、我々はグループ内の眼科臨床医たちがこれまで培った網膜変性疾患の診療、遺伝子診断、疾患や予後の説明、再生医療や遺伝子治療の適応、ロービジョンケア、生活や人生設計へのアドバイスなどを総合的にAIソフトに置き換えることによって、的確なアドバイスが広く世界で行われることを願っています。

その他

過去に内閣府のSIP「自動運転(システムとサービスの拡張)/視野障害を有する者に対する高度運転支援システムに関する研究」で進めてきた視野障害者の運転に対する自動運転及び運転高度支援システムの研究をビジョンケアが参画して継続しています。広く眼科で視覚障害者の運転のアドバイスが行えるように、ドライビングシミュレーターと運転外来のノウハウの普及を目指して事業化していく準備をしています。また、眼感染症原因検索のためのマルチプレックスPCR検査の事業化、網膜細胞移植のリアルタイム拒絶反応検出検査、眼科手術ロボットの開発などを行っています。